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神戸地方裁判所 昭和50年(ワ)1027号 判決

原告 椙本泰子

右訴訟代理人弁護士 松重君子

被告 橋田利子

主文

被告は原告に対し、金四、五五四、〇〇〇円およびこれに対する昭和五〇年一一月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告のその余を被告の負担とする。

この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、本件事故の発生および責任原因について、被告が原告から拓也の監護を依頼されたか否かの点を除き当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によると、次の事実が認められる。

原告は、昭和四八年三月から神戸市垂水の山本智昭が経営する喫茶店ポピーの店員として勤務することになり、当時同店のママをしていた被告と知り合い、やがて拓也を連れて同店二階で被告と一緒に住むことになった。その後被告は、昭和四九年四月ごろ本件事故が発生した神戸市須磨区神撫町一の一四所在の福井文化アパート二階に移住し、同年一〇月に長女を出産したため、原告が被告方に毎日のように出かけて掃除、洗濯、食事の世話などをしていた。また原告の体の具合の悪いときには、被告が一〇日間も拓也の面倒をみたこともあった。本件事故の前夜、山本と原告および拓也が被告方に来て泊り、山本が事故当日の朝から阪神競馬場に出かけるのに原告を誘い、原告は雇主である山本の機嫌を損じないようにこれに応じたが、拓也が風邪をひきかけていたので、こじれるのをおそれ、被告方に置いたまま同日午前九時ごろ出かけた。その際原告は、被告に対して別に拓也の世話を頼む旨を言葉でいわなかったが、被告は原告と山本とが、競馬場に出かけることを承知していたし、その外出の間従来の原告との親密な間柄から、被告において拓也の世話をすることを諒承していた。

右認定に反する証拠はない。そうすると、被告は原告から黙示に拓也の世話を依頼されて、これを引きうけその面倒をみていたのであるから、原告との間に好意的な協定関係があったものということができる。したがってその協定(依頼)の趣旨に添うべき義務、すなわち原告主張のとおり幼児の生命、身体に危険を避けるための注意義務があるものといわねばならない。しかるに被告は、これを怠り本件事故を惹起した以上、その過失責任は免れない。

二、原告の損害について

1  亡拓也の逸失利益

(1)  拓也の死亡年令

二才(当事者間に争いがない。)

(2)  平均余命

六七・三一年(第一二回生命表)

(3)  就労可能年数

一八才から六三才まで四五年間。

(4)  ホフマン係数

一六・〇六五四

(5)  収入

賃金センサス第八表(1)によると、一八才男子の平均月額給与金六〇、六〇〇円(年収金七二七、二〇〇円)、年間賞与額金八三、〇〇〇円であるから、その年収は金八一〇、二〇〇円となる。

これらを基礎に生活費控除を収入の二分の一として算出すると、その逸失利益は金六、五〇八、〇〇〇円(千円未満切捨)となる。

(算式)

八一〇、二〇〇×一六・〇六五四×〇・五

≪証拠省略≫によると、亡拓也の相続人は、母である原告と父である訴外矢野義男であることが認められ、原告は右逸失利益の二分の一である金三、二五四、〇〇〇円を相続したこととなる。

2  葬儀費用

≪証拠省略≫によると、原告は拓也の葬儀を行い、その費用として金三〇万円を要したことが認められる。

3  慰謝料

本件事故の態様、前記一に認定した原、被告間の関係、被告が好意的に拓也の世話をするようになった経緯、原告が一人息子を失った悲しみなど諸般の事情などを考慮すると、その精神的損害は金一〇〇万円をもって相当と認める。

三、そうすると、原告が被告に対し、二の損害合計額金四、五五四、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五〇年一一月一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、本訴請求を認容し、その余を失当として棄却することとする。よって訴訟費用の負担について、民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 藤本清)

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